公益財団法人 日本呼吸器財団:呼吸器疾患の病態解明・研究推進、啓発活動


公益財団法人 日本呼吸器財団
令和2年度研究助成のご報告

血漿中miRNA・タンパク質、および、エクソソーム内miRNA・タンパク質解析による、がん悪質液のバイオマーカー研究

研究代表者 順天堂大学医学部附属順天堂医院 呼吸器内科・助教 宿谷 威仁 先生

研究成果

<背景>
がん悪液質は、通常の栄養サポートでは完全に回復することができない、体重減少や食思不振を特徴とする症候群である。がんの原因となる遺伝子異常とそれに対応する分子を阻害する分子標的薬の発見、がんに対する免疫制御機構の解明とがん免疫を活性化する抗体薬の登場で、進行がん患者の予後は改善傾向にある。しかしながら、これらの薬剤は、全ての進行がん患者に有効ではなく、また、治療が発展しても、いまだ、がん悪液質によるQOL(quality of life)および予後の悪化は問題となっており、このメカニズムの解明と新たな治療方法の開発が望まれている。
<方法>
2019年から2020年にかけて、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けた進行肺がん患者55名の治療前および治療開始3週間後の血漿検体を用いた。血液中のエクソソーム内タンパク質、血漿中のmiRNAに注目し、がん悪液質との関連を検索した。次に、血漿中のタンパク質、サイトカインとケモカインに注目して、がん悪液質との関連、治療効果や有害事象との関連を調べた。
<結果>
血液中のエクソソーム内タンパク質に関しては、がん悪液質との関連を示した意義のあるタンパク質は認められなかった。血漿中のmiRNAに関しても、がん悪液質合併患者と非合併患者で有意差を認めるものはなかった。血漿中のサイトカイン・ケモカインに関しては、治療前のIL-6、IL-8、IL-10、IL-15、およびIP-10が、悪液質合併患者で有意に高かった。一方、eotaxin-1は悪液質合併患者で有意に低かった。さらに、ICIが奏効した患者において、治療開始3週間後のeotaxin-1が、非奏効群よりも有意に高かった(p=0.039)。治療開始前およびICI開始3週間後の両方の血漿で、irAEを経験した患者で、よりIL-6が高値であった(それぞれp = 0.0098、p = 0.042)。grade3以上のirAEを認めた患者でも、IL-6がより高値であった(p = 0.033)。治療開始前およびICI開始3週間後の両方の血漿で、IL-10高値と全生存期間の短縮に関連があった(2年生存率:32.5% vs 72.6%、P=0.012;44.3% vs 62.3%、P=0.109)。また、ICI開始3週間後のeotaxin-1の増加は、奏効と全生存期間の延長に関連していた。
<結語>
 がん悪液質と関連する意義のあるエクソソーム中タンパク質や血漿中miRNAを検出することは出来なかった。治療前のIL-6、IL-8、IL-10、IL-15、およびIP-10は、悪液質と関連があり、IL-6高値はirAEのリスクと考えられ、IL-10高値は全生存期間の短縮と関連していた。


第63回日本呼吸器学会学術講演会での報告


受賞コメント

がん悪液質は、通常の栄養サポートでは完全に回復することができない、体重減少や食思不振を特徴とする症候群です。がんの原因となる遺伝子異常とそれに対応する分子を阻害する分子標的薬の発見、がんに対する免疫制御機構の解明とがん免疫を活性化する抗体薬の登場で、進行がん患者の予後は改善傾向にあります。しかしながら、これらの薬剤は全ての進行がん患者に有効ではなく、また、治療が発展しても、いまだ、がん悪液質によるQOL(quality of life)および予後の悪化は問題となっており、このメカニズムの解明と新たな治療方法の開発が望まれています。我々は、血液中のmiRNA・タンパク質、エクソソームと呼ばれる細胞外小胞内のmiRNA・タンパク質に注目し、これらががん悪液質にどのように関連しているかを解明するため、研究を行っています。本研究助成金を有効に活用し、その成果で医学・医療の改善に貢献すべく研究を進めていく予定です。

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