公益財団法人 日本呼吸器財団:呼吸器疾患の病態解明・研究推進、啓発活動


呼吸器疾患の知識


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微小粒子状物質 -PM2.5-

最近、大きく話題となっている大気汚染物質「PM2.5」。中国ではPM2.5が国内規定の最悪レベルである「深刻な汚染」に達しており、高速道路の一部が閉鎖されたり、飛行機の離着陸にも影響が出るなど、事態は深刻化している。日本においてもPM2.5濃度が一時的に上昇し、国民の関心が高まっており、自治体によってはリアルタイムでPM2.5の値を公表したり、日本気象協会では「PM2.5分布予測」を提供するなどしている(図1)。例年冬季から春季にかけてPM2.5の濃度が上昇する傾向にあり、今後さらに関心が高まる事が予想される。今回は、このPM2.5について解説する。

図1.PM2.5分布予測
(出典:日本気象協会ウェブサイト)

PM2.5とは

大気中には様々な物質が浮遊しているが、これらのうち粒子経が10μm以下のものを、「SPM」といい、さらにこれよりも小さい粒子経2.5μm以下のものを「PM2.5」という(図2)。その成分は、炭素成分、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩のほか、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなどの無機元素などさまざまである。これらは微小なため大気中に長く滞留し、呼吸器に影響を及ぼす。とくにPM2.5はより肺の奥まで入り込むため、喘息や気管支炎などの呼吸器疾患を起こす確率が高くなる(図3)。発生源としては、ボイラーや焼却炉のばい煙、鉱物堆積場などの粉じん、自動車やストーブ、火山など、燃焼などによって直接排出されるものと、大気中の硫黄酸化物や窒素酸化物、揮発性有機化合物などが光やオゾンと反応し、PM2.5となるものがある。

図2. PMの大きさ(出典:米国EPA)
図3.人の呼吸器と粒子の沈着領域
(出典:環境省ウェブサイト)

健康被害

中国での深刻な大気汚染による被害として、今年1月の中国青年報による世論調査では、「咳が出る、のどが痛い、胸が苦しい」と回答した割合が50.4%に上っている。また、PM2.5が死亡率に与える影響を調査した研究によると、PM2.5が10μg/m3増えると、心臓や肺の病気による死亡率が9%、肺ガン死亡率が14%、全死亡率が6%増加すると示している。ただし、元々呼吸器系や循環器系の病気を持つ人、お年寄りや子どもなどは影響を受けやすいと考えられ、個人差も大きいため今後もデータの蓄積が必要である。

環境基準

人の健康を保護する上で維持される事が望ましい基準として、呼吸器疾患、循環器疾患及び肺がんに関する様々な国内外の疫学知見を基に、専門委員会において検討を行った結果、以下のとおりPM2.5の環境基準を定めている。

1年平均値 15μg/m3以下 かつ 1日平均値 35μg/m3以下(平成21年9月設定)

注意喚起のための指針

PM2.5に対する関心の高まりを受けて、環境省は大気汚染及び健康影響の専門家による「PM2.5に関する専門家会合」を開催し、そこで暫定的な指針が示された。さらに平成25年11月13日の第5回専門家会合においては、注意喚起のための暫定的な指針の運用に関する改善策が示された(表1)。
環境省では、暫定的な指針となる値を超えた場合の対応措置として、屋外での長時間の激しい運動や外出をできるだけ減らす事が有効であるとしている。その際、屋内においても換気や窓の開閉を必要最小限にするなど、外気の吸入を減らす事、またその他の対応措置として、高性能な防じんマスクの着用やPM2.5除去効果のある空気清浄機の使用などを勧めている。

表1. 注意喚起のための暫定的な指針(出典:環境省ウェブサイト)

喫煙との関連

このように大気汚染としてのPM2.5が関心を集めているが、実は意外な所で高濃度のPM2.5にさらされている危険性がある。タバコの煙である。タバコの煙には、4,000種類以上もの化学物質が含まれているとされ、その中には微小粒子であるPM2.5も存在する。
喫煙によるPM2.5濃度の変化を調査した研究によると、実際に室内のPM2.5の値を測定したところ、喫煙者のいない家庭では平均8μg/m3(最大で18μg/m3)、少なくとも一人の喫煙者がいる家庭では平均71μg/m3(最大で453μg/m3)となった(図4)。喫煙者のいる家庭におけるPM2.5濃度は、最大の時で国内基準値の約13倍となり、中国の大気汚染のレベルと同等かそれ以上であった。喫煙者のいる室内においては、常に深刻な汚染にさらされているということを認識するべきであろう。

図4. 家庭の喫煙状況によるPM2.5分布
(Am J Respir Crit Care Med 176:465-472, 2007)

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